要件・手続・注意点を弁護士が解説
「遺言を作成しようと思っていたが、まだ準備できていない。」
そのような状況で、突然の病気や事故により生命の危険が迫った場合、通常の自筆証書遺言や公正証書遺言を作成することが困難になることがあります。
このような緊急事態に備えて民法が認めている制度が「危急時遺言」です。
今回は、危急時遺言の概要や要件、注意点について、弁護士法人クローバー江南法律事務所が解説します。
目次
1 危急時遺言とは
危急時遺言とは、疾病や負傷などによって死亡の危険が差し迫っている人が、通常の方式による遺言を作成することができない場合に利用できる特別な遺言制度です。民法976条に定められています。
2 危急時遺言が認められるケース
危急時遺言が認めらるためには、危急状態にある必要があり、例えば、次のようなケースが考えられます。
・重篤な病気で入院している
・医師から余命宣告を受けた
・大きな事故に遭い生命が危険な状態にある
このような死亡の危機に直面し、通常の遺言方式を取る余裕がない状況であっても、自分の財産を誰に引き継がせたいかという意思を残すことができます。
3 危急時遺言の作成方法
危急時遺言は、通常の遺言よりも厳格な手続が定められています。
具体的には、次のような流れで作成します。
⑴ 証人3人以上を準備する
危急時遺言では、3人以上の証人が必要です。
なお、推定相続人や受遺者並びにこれらの配偶者や直系血族は、法律上証人になれないため注意が必要です(民法947条)。
⑵ 遺言者が内容を口授する
遺言者が証人の前で遺言内容を口頭で伝えます。
例えば、
「自宅不動産は長男に相続させる」
「預金は妻と長女に2分の1ずつ相続させる」
といった内容を伝えます。
⑶ 証人の1人が筆記する
証人のうち1人が遺言内容を書面にまとめます。
⑷ 遺言者および証人が内容を確認する
筆記された内容を遺言者と証人が確認し、各証人が署名押印します。
4 家庭裁判所の確認手続が必要
危急時遺言は作成しただけで有効になるわけではなく、家庭裁判所へ確認の申立てをしなければなりません。
⑴ 申立期限
危急時遺言を作成した日から20日以内に遺言確認の審判の申立てをする必要があります。
⑵ 申立先
遺言者が存命中は遺言者の住所地を、遺言者が亡くなった場合は最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
⑶ 必要書類
・申立書
・危急時遺言の写し
・証人3名の戸籍謄本
・遺言者の戸籍謄本・住民票
・医師の診断書等危急時であることを証する資料
申立てを受けた家庭裁判所は、
・遺言者が危急状態にあったか
・法律上の方式が守られているか
・遺言内容が本人の真意に基づくものか
といった点について調査して有効性を判断します。
この確認手続を経なければ、危急時遺言は効力を生じません。
5 回復した場合はどうなるか
危急時遺言にはさらに重要な特徴があります。
遺言者がその後回復し、普通方式の遺言を作成できる状態になってから6か月間生存した場合、危急時遺言は効力を失います(民法983条)。
つまり、危急時遺言はあくまでも緊急避難的な制度であり、本来は公正証書遺言や自筆証書遺言によって改めて遺言を作成することが予定されているのです。
6 危急時遺言で起こりやすいトラブル
実務上、危急時遺言は相続人間の紛争につながることも少なくありません。
例えば、
・本当に本人が話した内容なのか
・判断能力は十分だったのか
・証人が適切だったのか
・手続に不備はなかったか
などが争われることがあります。
また、死亡が迫った状況で急いで作成するため、財産の特定や相続割合の記載が不十分となるケースも見受けられます。
その結果、かえって相続トラブルが複雑化することもあります。
7 遺言作成は早めの準備が重要
危急時遺言は、いざという時に利用できる重要な制度ですが、利用できる場面は限定されています。
また、限られた時間の中で、証人の確保や家庭裁判所への申立てといった多くの手続が必要となるため、実際には容易に利用できる制度ではありません。
したがいまして、相続トラブルを防ぐためには、元気なうちに公正証書遺言などの方法で適切な遺言を作成しておくことも重要です。
弁護士法人クローバー江南法律事務所では、遺言書作成、遺産分割、遺言執行など幅広い相続案件に対応しております。
「危急時遺言を作成したい」「家族が危篤状態で遺言作成を検討している」「将来の相続トラブルを防ぐために遺言書を作りたい」とお考えの方は、お早めに弁護士法人クローバー江南法律事務所へご相談ください。




